めて三十分も僕の書斎に上って、一服やってくれたら、また何か一興を供することが出来ると思うんだがね」
 昔馴染の室は、そのミクロフト・ホームズの管理と、ハドソン夫人の行き届いた注意で、全く昔ながらの儘であった。非常にキレイではあったし、また凡ての位置は昔日のままであった。化学実験所や、酸に侵された樅板をはったテーブルもある。それから本棚には、驚異すべき切り抜き帳や、かつてはロンドン市民を熱狂せしめた大事件の参考書が、一ぱい立ち並んでいた。それから図表、バァイオリンケース、パイプ架《かけ》、それから更に波斯《ペルシャ》スリッパー、――……と、それぞれ見まわす目に止まった。室の中には二人の人間が居た、――一人はすなわちハドソン夫人で、私達二人が入って行ったら、目を輝かして歓迎してくれた。それからもう一人は、全く見知らぬ無言役者、――すなわち今夜の大活劇に、最も重要な役目を演じた、私の友人の蝋色の胸像――なるほど実に驚異すべきまでに、その真《まこと》を模写していた。小さな卓台の上に置かれて、ホームズの常に着用する、寛服《ガウン》を着けさせているので、なるほど街路から見れば、理想的に完全な影絵を
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