撃したのだ」
「君はまたそれをどうしてわかったのだね?」
「僕はちらりっと窓の外を見た時に、彼等の見張りを見止めたのだ。その者の名前はパーカーと云い、咽喉を締めて追剥するのが稼業、別に大して害意のある男でもなく、口琴の名手だ。僕はもちろんこんな男は意にも介しないが、しかしその背後には、もっともっと怖ろしい人物が居るのだ。あのモリアーテー教授の腹心の友で、かつて僕に断崖の上から、大石をころがして落した男、――ロンドン中で最も狡智な、そして恐ろしい犯罪者さ。この人間がすなわち、今夜、僕に尾《つ》けたのだが、ところがワトソン君面白いことには、その人間がかえってこの俺たちに尾《つ》けられていることは知らないのだ」
 こうして私の友人の計劃は着々と効を奏して来て、最も時宜を得た退却に因って、監視者は被監視者となり、追跡者は被追跡者となってしまった。向うの角ばった影絵は餌で、自分たちは猟師であった。吾々は暗《やみ》の中に立って、黙々としたままで、忙わしそうに往来する姿を見守った。ホームズはいよいよ黙していよいよ動かない。しかしその注意力は依然驚くべきものである。彼の目は往来する人々の流れに、ピタリ
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