私は彼の声の中から、芸術家が創作の上に持つ、歓喜と矜持と同じものを感得するのであった。
「とにかく似ているかね」
「似ているも何もない、――僕はてっきり君自身と思わされてしまったほどだ」
「そうか、しかしこの成功の栄誉は、グレノーブルの、オスカー・[#「・」は底本では欠落]ミュニアー氏に帰すべきものだよ、氏は数日を費して模型《モーデル》してくれたのだ。あれは蝋の半身像だよ。今日の午後、ベーカー街に行っている間の、俺の安息している姿さ」
「それはまたどうしたことなの?」
「うむ? いやワトソン君、実は僕はどこに出ても、常にあの室に居るものとある者に思わしめなければならない、重大な理由があるのだ」
「それではあの室は監視されていると云うのかね?」
「うむ。あの連中はたしかに監視していることを知ったのだ」
「それは一たい誰のことさ?」
「ワトソン君、それは僕の旧怨の者共さ。あのライヘンバッハ瀑布の水底に横わっている屍を主領とする、例のお歴々たちさ。君も知っている通り、あの連中だけが、僕の生存を確認しているのだからね。彼等はいずれ僕の帰還を信じ、不断の監視をなし、しかも今朝は僕の帰還したのを目
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