みたまえ。もっともよく注意して向うから見つからないようにしなければならないよ。あの室こそは俺たちの、冒険史の振り出しだったろうがな。まあ三年の間失踪しても、腕は鈍らないつもりだがね」
 こう云われて私は、窓の方に進み寄ってお馴染の窓を見やった。
 果然! 私はただあっと驚かされてしまった。窓かけは下され、中には煌々とした灯火《あかり》が輝いているが、その窓かけの上に映っている影絵、屹《き》っと支えられた頭、角張った肩、峻鋭な風貌、――やがてその影絵は、頭を半廻転させたが、そのポーズこそ我々の祖父母たちが、好んで額縁に入れる、黒色半面画像、――シャーロック・ホームズの復製ではないか!
 私はあまりに不可思議なので、手をのばしてもしや本物のシャーロック・ホームズが側に居るかどうかを確かめた。彼は身体をゆすりながら、微笑をかみ殺していた。
「どうだね?」
 彼はささやいた。
「おい助けてくれ。これは驚いた。これは全く驚いた!」
 私は悲鳴を上げてしまった。
「僕は確信しているのだが、年齢も自分の無限の変心性を凋《しぼ》ますことは出来ず、また習慣もそれを腐らすことは出来ないね」
 彼は云った。
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