いるのであろう、両の眉は茫然と放たれ、薄い唇は固く結ばれている。一たいこの犯罪の都ロンドンの、暗黒な籔の中から、果してどんな獲物を狩り出そうと云うのであろう! 何しろこの狩猟長の厳粛な表情を見ると、この冒険はなかなかの重大事であると云うことは、看取されたが、またそれと共に時々漏れるこの苦行者の暗欝の中からの嘲笑は、この探険に対して何等かの自信を思わせるものであると思われた。
 私達はベーカー街にゆくものと思ったら、ホームズはキャベンディッシの辻で、馬車を止めた。それから彼は馬車から降り立って、左右に鋭く注意し殊に曲り角では、誰かに尾《つ》けられはしまいかと、驚くべく細密な注意を払った。道は一本道であった。ホームズのロンドンの裏通りに対する智識は大変なもので、彼はどんどんと急ぎ足で進み、私などは夢想もしなかった、鷹籠の網や厩のある間を通り抜けて、更に古い陰欝な家屋のある細い通りを過ぎて、マンチェスター街に出で、それからブランドフォード街に現われた。ここでホームズは素早く小さな路次に飛びこみ、木戸を開けて、荒廃した空地を通りぬけ、そして一軒の家の裏戸を鍵で開けて、その中に入り、また後からそ
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