し、一週間の後には僕はフローレンスに現われたのだ。もちろん現世の人間と云う人間は、僕の行方などを知るはずはなかったのだが、――
 僕は一人の腹心の者をこしらえた、――それは弟[#「弟」は誤訳で本当は「兄」]のミクロフトであった。僕は君には大に陳謝《あや》まらなければならないが、しかし何しろ僕としてはこうせざるを得なかったのだ。そしてまたもし君が、僕が生きていると云うことを知っていたとすれば、あんなに鮮かに、僕の不幸極まる最後の発表書を書けるはずもなかったのだからね。この三年の間、実際何度か君にも書こうと思って、ペンも取り上げたが、やはりもしや君があんまり喜びすぎて、僕のこのせっかく大切の極秘主義に、かえって患《わざわい》することになりはしないかと思って、遂に書く決心も鈍ってしもうのであった。こう云う理由のために、今夕君が僕の本をひっくり返した時も、さっさっと僕は君から、離れ去ってしまったのだ。実際あの時は僕にとっては、とても大変な場合だったからね。君がもしあまりに驚いた様子や、また感興を起されて、僕であると云うことが周囲の人々の目にわかってしまったら、それこそもう絶対絶命な、全く取り返
前へ 次へ
全53ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング