た頃は、ワトソン君、君達の一行が、まことにお気の毒な、全く徒労な方法で、僕の死の情況を探査していたのだったのさ。
 それから遂に、君たち一行は、それは止むを得ないことであるが、全く誤った断定を下して、ホテルに引き上げてしまったので、僕は全く一人ぽっちにのこされてしまった。これで僕の大冒険もいよいよ終りかと想像したら、俄然、更に全く夢想もしなかった事件が突発した。僕には全くこの上にも、危険が取りのこされていることに気がついた。と云うのは突然一つの大きな岩が、上の方から転落して来て、僕の横わっている上を、唸り越えて、小径に打ち当り、更に断崖の下の方に跳ねとんでいった。最初のちょっとの間は、これはただ偶然の出来ごとに相違ないと思った。がしかし僕はすぐに、見上げた途端に、もう暮れかかった薄暗《うすやみ》の空の前に、一人の人間の頭を見止めた。と、それと共に、またもう一つの大きな石が、転げ落ちて来て、僕が横わっている窪地の、僕の頭から一|呎《フィート》とも離れない出張りの角に当った。もう一切が明瞭である。モリアーティは決して一人ではなかったのだ。一人の連累者、――それもただ一見して、いかに怖るべき
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