またあの湿った小径は、全く足跡を止めずに辿ると云うことも、明かに不可能なことであった。僕はこうした場合に、以前にもやったように、靴を後前《あとさき》を逆にしてはこうかとも思ったが、しかし同一方向に三つの足跡があると云うことになると、それはもう一目瞭然に、瞞著《まんちゃく》であると云うことが看破されてしもう。それで結局、僕はとにかく這い上るより外に道はなかった。しかしこれがまた、ワトソン君、なかなかの大仕事なのだ。はるか底の方では、滝壺が物凄く鳴り響いている。僕は決して妄想的な人間ではないが、しかし、実際のところ、どうも滝壺からは、モリアーティ教授の唸り声がきこえて来るようにさえ思われた。それにまたもし一歩を誤ったら、それこそ百年目だ。実際、草の根がとれて、手が放れたり、足が岩の切り角から辷《すべ》ったりして、もうしまったと思ったことも、一度や二度ではなかったよ。しかし僕はとにかく、上へ上へと這い上った。そして遂に、五六尺も深いかと思われる柔かな苔に蔽われた大きな窪地に到達した。そして僕はそこに、まったくどちらからも隠蔽して、全くいい気持で横になった。ここで僕が身体を伸び伸びと伸ばしてい
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