《オペラハット》をアミダにかぶり、夜会服の胸が、開いている外套から光って見えた。深い皺が刻まれて、痩せて角ばった、いかにも獰猛な相であった。ステッキのようなものを手に持っていたが、それを床の上に置いたら、金属性の音を発した。それから彼は、外套のポケットから、嵩ばったものを取り出して、いかにも慌てているように、手早く何か仕事を始めた。そしてその仕事は、スプリングか釘のようなものが、ガチャンと嵌まりこんだような音をたてて終った。それから今度はなお膝まずいたままで、一本の挺子《てこ》のようなものに、全身の重さと力をかけて、捻じ廻すような、磨《ず》りつけるような音もたてたが、最後にやはり大きな音を立てて、この仕事も終った。彼は立ち上ったが、手にしたものを見ると、はなはだ珍稀《ちんき》な台尻のついた、一種の鉄砲のようである。彼は銃尾を開いて何か装填し、そして遊底を閉じた。それから彼は、身を屈めて開かれてある窓の縁に銃の先端を置き、爛々たる眼光で照準はつけられた。その重い髭も銃床の上に垂れかかっている。銃床を肩につけた彼は、満足らしく溜息を漏らす、――しかも更に驚いたことには、その照準された銃口の延線は、かの黄色い窓かけの上の、真黒い影像ではないか! その男はしばらくは不動のままである。やがて指は引金にかかった。異様な高い風を切る音、――それから銀のような、硝子《がらす》を破る音、――。と、これに間髪を容れず、ホームズはその時手に虎のように躍りかかって、彼を打ち伏せに投げつけた。しかし投げられた彼は直《ただち》に起き上って、ホームズの咽喉を、死に物狂いで締めて来た。しかし私は彼の頭を、ピストルの尻で打ちつけたので、彼はまた床の上に倒れた。私は彼を押さえつけると、私の友人は合図の甲走った声を発すると、外の舗道の上には、靴音の急ぐのがきこえ、やがて正面の入口から、二人の制服巡査と、一人の私服の刑事巡査とが上って来た。
「君は、レストレード君!」
ホームズは云った。
「そうです。ホームズさん、職業柄、自分でやって来ました。しかしロンドンにお帰りになったのは、全く御同慶の至りに堪えません」
「いや、君は僕の非公式の助力が要りそうだと思ってさ。レストレード君、何しろ未検挙の殺人事件が一年に三つもあるのではないかね。しかしモルセイの怪事件だけは、日頃の君らしくもなかったね。いや実に見事な
前へ
次へ
全27ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング