人間であるかと云うことがわかったが、その連累者が、モリアーティが僕に襲いかかった時に、見張りをしていたのだ。彼は遠方から、僕には全く気づかれないように、その友人の死と、僕の遁走を見届けたのだ。彼はしばらく待ち構えた後、廻り道して断崖の上に来て、その友人の失敗を、見事に取り返そうと云うことであったのだ。
ワトソン君、しかし僕はこう云う想定をするのにも、決して手間取らなかったよ。その中《うち》にまた懸崖の上には、凄い顔が現われて、こっちを見下している。もう第二の石の来る前兆である。とにかく僕は小径の上に這い下りた。もちろん僕はこうしたことを、落ついてやってのけたとは云わないよ。何しろこの這い下りることは、這い上るのに何百倍して、困難なことだったからね。しかし僕はもちろん、危険などと云うことを考えてはいられなかった。僕が出張りの角に手をかけてぶら下った時に、また第三の石が落っこって来て、間髪の間を唸り越えて行った。半分はただ辷り落ちに落ちて、ただ天祐で、とにかく平なところに着陸した。皮膚は擦りむけて、小径の上に血痕が滴りついた。それから僕は遁走を続け、暗夜の中を十|哩《まいる》の山路を突破し、一週間の後には僕はフローレンスに現われたのだ。もちろん現世の人間と云う人間は、僕の行方などを知るはずはなかったのだが、――
僕は一人の腹心の者をこしらえた、――それは弟[#「弟」は誤訳で本当は「兄」]のミクロフトであった。僕は君には大に陳謝《あや》まらなければならないが、しかし何しろ僕としてはこうせざるを得なかったのだ。そしてまたもし君が、僕が生きていると云うことを知っていたとすれば、あんなに鮮かに、僕の不幸極まる最後の発表書を書けるはずもなかったのだからね。この三年の間、実際何度か君にも書こうと思って、ペンも取り上げたが、やはりもしや君があんまり喜びすぎて、僕のこのせっかく大切の極秘主義に、かえって患《わざわい》することになりはしないかと思って、遂に書く決心も鈍ってしもうのであった。こう云う理由のために、今夕君が僕の本をひっくり返した時も、さっさっと僕は君から、離れ去ってしまったのだ。実際あの時は僕にとっては、とても大変な場合だったからね。君がもしあまりに驚いた様子や、また感興を起されて、僕であると云うことが周囲の人々の目にわかってしまったら、それこそもう絶対絶命な、全く取り返
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