たってる奴があなたの代りに働いていると云うことを、あなたに話すような男と寄りさわらないようにすることも。そこであいつ等は、あなたに給料の前払いをして、バーミングへ追っ払ったんです。そうしてあなたがロンドンへ行かないように、そこであなたに仕事をやらせたわけです。けれどあなたは彼等のたくらみ[#「たくらみ」に傍点]を見破ることが出来たんです。――からくり[#「からくり」に傍点]の全部はこうなんですよ」
「けれどなんだってこの男は、兄弟に化けたりなんかする必要があったんでしょう?」
「なるほど、それは分かりきってますよ。この事件には、判然と、人間は二人いるきりです。一方では、モーソンの事務所で、あなたの代りになっています。それからこっちのほうでは、あなたの雇主として活躍したわけです。ところが、あなたを雇うのに、誰か第三者を彼のこの計画の中に入れて、その人にあなたを推薦させないでは工合が悪るかったのです。けれど第三者を中に入れることは、いやだったんですよ。そこで彼は出来るだけ自分の容貌をかえたんですね、そしてそれでもまだ似ている所は、あなたも見破れなかったように、兄弟だから似ているのだと云うように思わせてしまったのです。しかし不幸なことに、金の入れ歯で、あなたに疑いを起されたのです」
ホール・ピイクロフトは拳を空中に振り上げた。
「有難いぞ!」
彼は叫んだ。
「私がこんな馬鹿を見ている間に、もう一人のホール・ピイクロフトはモウソンの事務所で働いていたんだ! ホームズさん、私たちはどうしましょう。どうか話して下さい」
「モウソンの所へ手紙をやるのですね」
「土曜日は十二時に店をしめちまうんです」
「大丈夫です、誰か門番かでなければ留守番がいるでしょう――」
「ええいます。――いろんな株券だとか保証金だとかがありますから、いつも番人がおいてあります。そんなことをちょっと耳にしてたように記憶してます」
「好都合だ。モウソンに手紙をやりましょう。そして変り事はないか、またあなたの名前を使ってる事務員がそこで働いているかどうかきき合せましょう。それでこの事はハッキリします。けれどハッキリしないのは、なぜこの悪漢が、私たちを見た瞬間部屋から逃げ出していって、首をくくったかと云うことです」
「新聞」
私たちの後ろで声がした。その男は真蒼な顔をして薄気味悪い顔をして起き上っていた。彼
前へ
次へ
全22ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング