の目はたしかに生き返ったらしい光りを見せながら、まだ彼の喉にまいてある巾広の赤色のバンドを彼はいじくっていた。
「新聞! そうだ!」
 ホームズはひどく昂奮して喚くように云った。
「俺はなんて阿呆なんだ! ここの事件ばかりに気をとられていて、新聞のことはちっとも頭に這入って来なかった。――たしかにそこに何か秘密があるに違いない」
 彼はテエブルの上に新聞をひろげた。と、彼の唇からは、勝誇ったような叫び声がとび出した。
「これを見たまえ、ワトソン」
 彼は叫んだ。
「ロンドンの新聞だ。イブニング・スタンダードの早出しだ。ここに僕たちの知りたいと思ってたことが出ている。頭の仕事を見たまえ。――『市中の犯罪、モウソン・ウィリアム会社の殺人。巨怪なる強盗の襲来。犯人の逮捕』――ワトソン、みんなそれを知りたいんだ。すまないが声を立てて読んでくれたまえ」
 それは都会における重大事件の一つとして、新聞の報導記事に取扱ってあった。そしてその記事は次のように書かれていた。
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――本日午後当市において、兇暴なる強盗現れ、人一人殺害したるも、犯人は捕縛せられたり。有名なる仲買店モウソン・ウィリアム会社には、常に百万|磅《ポンド》以上に相当する株券、債券、あるいは保証金などのあるため、番人を常備しありたる上、支配人は用心深く、彼が負わされているそれらの重用物件のために、最新式の金庫を数個用意し、その上ビルディング内には、昼夜の別なく見張人を残しありたるなり。ちょうど先週より、事務所に雇われたるホール・ピイクロフトと云う、新しき書記現れたり。この男こそ、かの有名なる偽造者にして強盗犯人たるベディッグトン以外の何者でもなかりしなり。彼は彼の兄弟と共に、最近五年間の牢獄生活より出たるばかりの男。しかるにいかなる方法にてか、その方法は未だに不明なるも、偽名を用いてうまうまと事務所の事務員の位置をかち得たるなり。そは事務所内のあらゆる鍵の合鍵と、堅固なる部屋と金庫のある位置とに関しての知識を得んがために、利用したるなり。
 モウソンの事務所にては、土曜日は事務員たちは半日にて帰ることを習慣となせり。しかるに一時二十分すぎに、一人の紳士、革の袋を持ちて事務所の階段を下り来たるを見て、市内の巡視のテュウソン巡査部長は少なからず不審に思い、疑いを起こしたり。すなわち部長はその男を尾
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