大なる結構な会社の職にありつく時、宣誓書を書かされたと云うことだ。――君は、そこが実に怪しいとは思わないかね」
「どうもよく分からないね」
「じゃ、なぜあいつ等は、ピイクロフトにそんなものを書かせたんだろう?――それは事務的な目的ではない。なぜなら普通これらの約束は言葉だけでやってるんだから。とすれば何か他に目的がない限り、事務の上ではそんなことをする理由は絶対にないんだ。――ね、ピイクロフト君、お分かりになりませんか? あいつ等はあなたの手跡の雛形をとりたいと苦心していたので、あの時、あなたにそうさせるより他に方法がなかったのだと云うことが、――」
「だが、なぜそんなものがほしかったのでしょう?」
「そこです。なぜ? それにお答えすれば、この事件の解決も少し進むわけなのです。なぜそれがほしかったか? それにはうなずける理由はただ一つしかありません。誰かがあなたの手跡の真似をするために習おうと思ったのです。そしてそのためには、まずその見本をせしめなければならなかったのです。そこで第二の点に行くわけですが、そうなればこの二つの点が、お互いに重大な関係を保ち合ってると云うことが分かるんです。――第二の点と云うのは、あなたに辞表を出させないで、しかも有望なこの堂々たる商売の支配人と云う地位をそのまま手もふれずに残させるようにした、ピナーの要求です。ピナーから云えば、その支配人と云う地位は、彼が会ったこともない、ホール・ピイクロフトと云う人間が、月曜日の朝から来ることになっていたのです」
「ああ神様よ」
私たちの事務員は叫んだ。
「私は何と云う盲目野郎だったんだろう!」
「これであなたは、その手跡のことを想像してごらんなさい。何者かがあなたの代りになって、あなたがとっておいた就職口に行くのです。無論、たくらみはうまく行くでしょう。その男はあなたとは似てもつかない字をかくのです。しかしその悪漢は、ひまひまにあなたの字の真似を習います。そしてそのために彼の位置は安全になります。少くもその事務所に誰一人、前にあなたを見たものがいないかぎりは」
「畜生め!」
ホール・ピイクロフトは呻《うめ》いた。
「まったくですよ。――もちろん、あなたに、あなたが得た就職口をよく思わせないようにすることが、非常に大切なことだったんです。それからまた、あなたが誰か、モウソン事務所であなたの名をか
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