いぶん大勢の悩んでいる人々に平和をもたらしてあげました。ですから、たぶん私は、あなたにもそうして上げることが出来ると信じます。けれど、手遅れになるといけませんから、ぐずぐずしないで手取早《てっとりばや》く、正直にあなたの事件をすっかりお話しになってくれませんか」
私達の訪問客はもう一度、辛《つら》い仕事にぶつかったぞと云わんばかりに、額《ひたい》へ手をやった。私は彼のその動作と表情とから、彼は無口で自制力の強い男だと云うことが分かった。そして胸のうちにまだ一抹の自尊心があって、自分の負った傷をかくしたいと思っているらしいことが分った。しかし彼は手を握りしめて苦しそうな身振りをしたが、やがて急に、束縛から解き放されたようにしゃべり出した。
「事実はこうなんです、ホームズさん」
彼は云った。
「私は移転して三年になるんですが、その間私たちは、大概の新婚夫婦がそうであるように、お互に深く愛し合って、幸福に暮しておりました。私たちは何一つ違ったところはありませんでした。ただの一所《ひとところ》も、――思想でも、言葉でも、動作でも。――ところが、先週の月曜日以来と云うもの、私たちの間には急に
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