御しきれなくなっているのだ、と云うことが分った。
「誰にしたって、自分の家庭内のいざこざ[#「いざこざ」に傍点]を他人に話したくはありませんよ。それはデリケートな気持ちの問題です」
 と彼は云った。
「二人の男と関係した人妻の品行の善悪をきめるってえことは、恐ろしいことです。しかもその男と私はまだ会ったことがないんです。それなのにそうしなければならないってことは、恐ろしいことです。私はもうどうしていいか分からなくなってしまいました。私は助けてもらいたいんです」
「ねえ、君。グラント・マンローさん……」
 ホームズは始めた。
「エッ?」
 私達の訪問客は椅子から飛び上《あが》った。そして、
「私の名前をご存じなんですか?」
 と叫んだ。
「だって、あなたは御自分のお名前を匿《か》くしていらっしゃりたいなら、帽子の内側へ名前を書くことをおやめにならなくちゃ、――でなければせめて、話してる相手の人間に、帽子の外側を見せるようにしていらっしゃらなければ駄目ですよ」
 とホームズは笑いながら言った。
「全くの話、この部屋では、私達はずいぶんたくさんな秘密をききましたよ。でも幸いなことに、私達はず
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