女はこっそり自分の部屋に逃げ込もうとして、自分自身の亭主に声をかけられると、アッと驚いて、おずおずと怖がっているのを見ては私はだまってはいられませんでした。――がやがて彼女は
「まあ、あなた起きてらしったの? ジャック」
と、苦しげに笑いを浮べながら云いました。
「おやすみなんだろうと思ったのよ」
「どこへいって来たの?」
と、私は少しけわしい声で訊ねてみました。
「ねえ、あなたびっくりなすったんでしょう」
と、彼女は申しました。彼女の手の指はぶるぶるふるえて、マントをとることも出来ないほどでした。
「私、こんなことを、今までにただの一度もした覚えはないわ。私ね、咽喉《のど》がつまりそうな気がしたのよ。だから、しばらく外の空気を吸って来たの。――私、外へ出て行かなければ、死んじまったのかもしれないと思うわ。私、入口の所にしばらく立っていたの。でも、もう、すっかり大丈夫なの」
彼女はそう云ってる間中《あいだじゅう》、ただの一度も私をまともに見ようともせず、また彼女の声の調子は、不断とはまるきり違っておりました。私には彼女が嘘をついてると云うことがはっきり分りました。私は何も返事を
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