、また新聞がつまらなかったりして退屈でどうにもしようがないような時だけに、気慰めにのむに過ぎないのであった。
それは早春のある日のことであったが、彼はノンビリした気持ちで私と公園へ散歩に出かけた。楡《にれ》の木は若芽を吹き出しかけ、栗の木の頂きには若葉が出はじめていた。私たちは、特に話さなければならないような話題もなかったので、碌《ろく》に口もきき会わずに二時間近くブラブラした。そして再びべーカー通りに帰って来たのは、もう五時近くであった。
「壇那さま、お留守にお客さまがお見えになりました」
と、彼が入口《いりぐち》の戸をあけると、給仕の子供が云った。
ホームズは非難するかのように私をジロッと見た。
「少し散歩が長すぎたな」
と云って、それから給仕に向って云った。
「それで、そのお客さまは帰っちまったのか?」
「ええ」
「中へ這入《はい》ってお待ちするようには言わなかったのかね?」
「いえ、中へお通ししたんです」
「どのくらい待ってたのかね」
「三十分ばかり。――でも、大変せっかちな壇那でしてね、ここにいらっしゃる間も始終、歩き廻ったり足踏みをしたりしていらっしゃいました。私、
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