れるわけである。けれど時々、ちょっとした機会から、彼がどんな風にしてその真相を誤解したかと云うことが、後から発見されたこともある。私はそんな場合を五つ六つ書き止めておいた。そのうち今ここですぐお話出来るものが二つある。そしてそれはそれらのうちでも一番面白いものである。
シャーロック・ホームズと云う男は、滅多に、身体を鍛えるために運動などをする男ではなかった。が、彼よりはげしい肉体労働に堪《た》え得る人間はほとんどなかったし、また確かに彼は、彼と同体量の拳闘家としては私の会ったことのある人のうちでは最も優れた拳闘家の一人だった。しかし彼は努力の浪費になるような無益な肉体的労働をちゃんと見分けて、何か職業上の目的のある場合でなくては、決して肉体を使うようなことはなかった。だから彼は絶対に疲れると云うことを知らずに、実に精力絶倫であった。その代り彼は不断からいかなる場合に処しても困らないだけの肉体の力を養っていた。食事は常に出来るだけ貧しいものをとり、厳格に過ぎるくらい簡易な生活振りだった。だが、時々、コカインをのむこと以外には、何も悪いことはしなかった。そのコカインも、事件が簡単すぎたり
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