、それでなんでもなかったのです。けれど私はそれを思い出させられるような事件にぶつかってしまったんです。
 それは、――さきほど私は、私たちの家のじき近くに離れ家《や》が一つあると申しましたね。――その離れ家と私たちの家《うち》との間には、広っ場があるんです。けれどその離れ家に行くには、グルグルと路《みち》を廻って、狭い路《みち》をおりて行かなくてはならないんです。ちょうどその狭い路《みち》の辺《あたり》は、樅《もみ》の小森になっているんです。私はよくその辺《へん》をブラブラしました。実際木の繁っている所っていいものですからね。――ところで、その離れ家ですが、八ヶ月もの間|空家になっていたんです。空家にしておくには本当に惜しいんで、小綺麗な二階があって、古風な入口で、周囲にはスイカツラがからみついていました。私は何回となくその前に立止っては、これでちょっと気のきいた農園住宅風なものを作れると考えました。
 すると先週の月曜日の夕方のことでしたが、私が例によってその辺《へん》をブラブラしておりますと、その狭い途《みち》を何も積んでいない幌附《ほろつ》きの運搬車がやって来るのに出合いました。
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