要《いりよう》になったら、そう云えって……」
「そう云ったとも、あれは全部お前のものだもの」
と私は答えました。
「そう?――じア、私、百|磅《ポンド》入要なの」
と彼女は申しました。
私はその金額をきいてちょっと考えたんです。だって、たぶん着物か何かそんなものが買いたいんだろうと思ってたからです。で、私は訊ねました。
「何に使うの?」
「まあ。あなたは、俺はお前の銀行家《ぎんこうか》だってそうおっしゃったじゃアないの。――銀行家って、何《なん》にお金を使うかなんて訊ねるものじゃないのよ、分かったでしょう」
と、彼女は冗談にまぎらせて答えました。
「本当に必要なら、無論あげるよ」
私は申しました。
「ええ、本当に入るのよ」
「それなら、何《なん》に使うのか云わなくちゃいけないね」
「いつかは申上げるわ、たぶん。でも今は云えないのよ、ジャック」
こんなわけで私は納得させられてしまいました。これがつまり、私達の間に秘密が這《は》いり込んで来たそもそもの初めなんです。――私は彼女に小切手を書いてやりました。そしてそのままそんな事は忘れていました。後になって何か事件さえ起きなければ
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