に近い割にしては、実に田舎らしい所です。家《うち》のすぐ近くに宿屋が一軒と人家《じんか》が二軒と、それから広っ場《ぱ》の向う側に小屋が一つあるきりで、あとは停車場《ていしゃば》へ行くまで半道《はんみち》もの間|家《うち》一軒ありません。――私は商売で定《きま》った期間だけ町に行きます。しかし夏の間は行きません。――こんな風にして、私たちはこの田舎家《いなかや》で、思う存分幸福に暮していたんです。全く、この呪うべき事件が始まるまで、私たちの間には何の影もさしたことはなかったのです。――それに、ここでもう一つあなたに申上げておかなくてはならないことがあります。それは私たちが結婚した時、彼女は彼女の財産を全部私名義にしてしまったことです。――私はむしろそれに反対したんです。と云うのは、もし私が商業上で失敗したら、困ったことになりますからね。けれど彼女はきかないでそうしちまったんです。――そうです。ちょうど六週間ばかり前のことでありました。彼女は私の所へやって来て
「ねえ、ジャック」
 と申すのです。
「いつか私の財産をあなたの名にした時、あなたはそうおっしゃったわね、もしお前がどれだけでも入
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