うと考えていることも、私にはよく分りました。――私たちは朝飯《あさめし》の間一言も口をききませんでした。そして朝飯がすむとすぐ私は散歩に出かけました。私は朝の澄んだ空気の中で、昨夜からの事件を考え直してみようと思ったのです。
私はクリスタル・パレス(ロンドンの南部にある遊覧所)の辺《へん》までも歩いていって、そこで一時間ばかり腰かけておりました。そして一時頃にノーブリーに帰って来ました。――と、偶然に私は例の離れ家の前に出ました。私はしばらく立ち止って、前日私をじっと見詰めていた例の気味悪い顔を、もう一度見つけることが出来るかもしれないと思って、あの窓を見上げてみました。するとどうです、ホームズさん、ふいにその家《うち》のドアが開かれて、中から私の妻が出て来たではありませんか。まあ、その時の私の驚き方を想像してみて下さい。
私は驚きの余りものも云えませんでした。しかし私たちの視線が出会った時、彼女の顔に現れた驚きの表情は、私のより更に激しいものでした。彼女は瞬間にちょっとまた家《うち》の中に逃げ込もうとするような様子を見せましたが、もう到底隠れることが出来ないのを知ると、私のほうへ近寄って来ました。彼女は蒼白な顔をし、恐怖に満ちた目をしていながら、唇の上には微笑《びしょう》を浮べておりました。
「まあ、ジャック、――私ね、今度いらしったお隣さんへ、何かお力になって上げられるようなことはないかと思って、伺《うかが》った所だったのよ。――まあ、なんだってそんなに私をご覧になるの、ジャック。何かおこってるの?」
と、彼女は申しました。
「そうか、昨夜、お前が来たのはここだろう?」
私は云いました。
「なんですって?」
彼女は声を高くしました。
「お前は来た。それは確かだ。――一体、お前がそうやって一時間ばかり会いにやって来なければならない人間って、何者なんだ?」
「私、今ままでにここへ来たことなんかありませんわ」
「どうしてお前は私に嘘をつくんだ?」
と、私は怒鳴りました。
「お前のしゃべる声はまるで変ってるじゃないか。お前は今までに、私に何かものをかくしていたことがあるか?――よし、私はこの家《うち》の中へ這入ってって、徹底的に調べてやる!」
「いけません、ジャック、お願いですわ」
彼女は夢中になって叫びました。そして私が入口に近寄って行くと、私の袖口にし
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