やがてまもなく、二輪馬車が全速力で、停車場から我等のノーフォークの紳士を乗せて、来たのであった。大変悩み衰えているらしく、目は疲れており、額には皺を寄せていた。
「これには全く、すっかり弱らされてしまいました、ホームズさん、――」
 彼は半病人のように、腕椅子にもたれ寄りながら云った。
「どうでしょう、――自分の周囲に未知の未見の人間が、何か策動していて、しかもその上に妻がもう一寸刻みに、殺されてゆくと考えては、とても我慢が出来ませんでしょう? いやこれこそ全く生きた気持はありませんよ。いや私の妻は刻々に、弱っていきます。もう刻々に弱って私の前から消えてしまいそうなんです」
「奥さんは何も仰有いませんか?」
「いえ、何も云いません。しかし彼の女は、云おうとしたこともあったようでしたが、やはり遂に云い出し得ませんでした。私は妻を助けようとしました。しかし私はまずかったので結局彼の女を怖れすくませてしまうだけでした。彼の女は私の古い家庭のこと、私の家庭の地方においての名聞、またその汚れない名誉と云ったようなものについて、言葉を触れさせることもありましたが、その時は私は、いよいよ大切な要点に
前へ 次へ
全58ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング