が、しかし何か私の妻を悩ましているものがあるとしたら、私は彼女を全財産を賭しても、保護してやりたいと思うのですが――」
 古いイギリスっ児のこの人間は、単純で卒直で、目は大きく熱意のこもった、堂々たる風貌の紳士であった。彼がその妻に対する愛情と信実は、外部にまで溢れ出ていた。ホームズは全注意を集めて、この話を聞いていたが、この話が終ると、しばしの間は、静《じ》っと沈黙したまま思案に沈んだ。
「いや、キューピットさん、――」
 彼はようやく口を開いた。
「これはやはり、あなたが直接に奥さんにお訊ねになって、あなたに対して秘《かく》されていたことを、話してもらうのが一番早道ではないかと思われますがね」
 ヒルトン・キューピットはしかし、その大きな頭を振った。
「ホームズさん、約束はどこまでも約束ですからね。もしエルシーが、話していいと思うくらいでしたら、彼から話してくれるでしょう。そしてまたもし話したくないことでしたら、私は彼の女に対して強要はしたくはありません。しかしそれと離れても、私には私で取るべき道はあるはずです。そしてそれを私は大《おおい》にやろうと思うのです」
「いや、そう云うの
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