どうしてその事を知っていたのだね?」
 私は訊き返した。
「さあワトソン君、ぐうの音が出まいがね」
「いや、全くその通りだ」
「それではね君、とにかくきれいに参ったと云う一札《いっさつ》を入れたまえ」
「それはまたどうしてさ?」
「いや、実はもう五分の後には、君はきっと、それは馬鹿馬鹿しくわかり切ったことだと云うに相違ないからだよ」
「いやいや、僕は決して、そんなことは云わないよ」
「ワトソン君、それでは御説明に及ぶとしようかね」
 ホームズは試験管を架にかけて、教授が講堂で、学生たちに講義でもする時のような恰好で話し出した。
「先人の研究材料を基本として、それを単純化して、推論の系統を立てると云うことは、決してそう難しいことでもないのだ。そしてもしこう云う試《こころみ》をして、誰かが中心思潮となっている論説を覆して、更にその聴衆に、新《あらた》な出発点と結論とを与えたら、それはたしかに、キザたっぷりなことではあるが、しかし一つの驚歎すべき結果をもたらしたと云ってよかろう。さて、君の左の人差し指と拇指《おやゆび》の間の皮膚の筋を見て、君が採金地の株を買わなかったと云うことが、あまり首を
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