夕食を待っているだろう。」
「はいはい。」と料理番は答えた。そして前髪に手を触れる敬礼をして、すぐ厨室の方へ姿を消した。
「あれはよい男ですぬ、船長」と医師が言った。
「そうかも知れませんな。」とスモレット船長は答えて、「おい、それはゆっくりやれ、ゆっくり。」と火薬を運んでいる連中に向って続けてしゃべった。それから突然、私たちが船の中央部に運んで来た旋回砲、真鍮の九ポンド砲を私が調べているのを目に留めると、――「こら、その給仕《ボーイ》、そこにいちゃいかん! 料理番《コック》のところへ行って何か手伝いをしろ。」と呶鳴《どな》った。
 それで私は急いで駆けてゆくと、彼がずいぶん大きな声で医師にこう言うのが聞えた。――
「私にはこの船で気に入った者は一人も出来ますまいよ。」
 確かに、私は大地主さんとまったく同感で、船長を心の底から憎んだ。

     第十章 航 海

 その夜は一晩中、私たちはいろいろの物をその各の場所にしまいこむのに大混雑し、またブランドリーさんやその他の大地主さんの知人たちが、大地主さんの平安な航海と無事の帰航とを祈りに、小舟何艘にも一杯乗ってやって来た。「|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋では私にその半分の仕事があった晩も一晩だってなかった。そして、明方《あけがた》少し前に、水夫長《ボースン》が呼子を鳴らして、船員が揚錨絞盤《キャプスタン》の梃《てこ》に[#「梃《てこ》に」は底本では「挺に」]就《つ》き始めた時分には、私はへとへとに疲れていた。その二倍も疲れていたにしても、私は甲板を去りはしなかったろう。それほどすべてが私には物新しくて興味があったのだ、――簡短な号令も、呼子の鋭い音《ね》も、船の角燈のちらちらする光の中をそれぞれ自分の場所へ駆けてゆく人々も。
「さあ、|肉焼き台《バービキュー》、歌を一つやれよ。」と一人の声が叫んだ。
「あの昔のをな。」と別の声が叫んだ。
「よしきた、兄弟。」と※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖に凭《もた》れてそばに立っていたのっぽのジョンが言って、すぐに節《ふし》も文句も私のよく知っているあの唄をやり出した。――

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「死人箱《しびとのはこ》にゃあ十五人――」
[#ここで字下げ終わり]
すると全部の水夫が合唱《コーラス》をやった。――

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