よいこらさあ、それからラムが一罎《ひとびん》と!」
[#ここで字下げ終わり]
そしてその「さあ!」のところで梃《てこ》を[#「梃《てこ》を」は底本では「挺を」]威勢よく※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。
こんな気の立った瞬間にさえ、その唄は私の心をたちまちにして懐しい「ベンボー提督屋」へつれ帰らせた。そして私にはあの船長の声がその合唱の中で歌っているのが聞えるような気がした。しかし、やがて錨がまっすぐに上げられた。やがてそれは水をぽたぽた滴らせながら船首のところにぶら下った。やがて帆が風を十分に孕み出し、陸や船が両側で飛ぶように動き出した。そして、私が一時間ばかりの眠りを貪ろうとして横になることが出来る前に、ヒスパニオーラ号はもう宝の島をさして航海を始めていたのである。
私はその航海のことを詳細に物語ろうとは思わない。航海はかなり順調にうまくいった。船はよい船であることがわかったし、船員たちは腕利きの水夫だったし、船長は自分の任務を十分に了解していた。しかし、私たちが宝島まで来ないうちに、知っておいて貰わなければならぬ二三の事件が起った。
第一に、アローさんが船長の気遣っていたより以上に、厄介な人間になった。水夫たちには少しも睨みが利かず、部下の者は彼に対して勝手なことをした。しかし、悪いのは決してそれだけではなかった。航海に出てから一二日たつと、彼は、眼をとろんとさせ、頬を赤くし、口を吃《ども》らせ、その他の酔っている徴候も示しながら、甲板へ出て来出したのである。幾度も彼は恥をかいて下へ行けと命ぜられた。時には自分で転《ころ》んで怪我《けが》をしたり、時には一日中あの船室昇降口室《コムパニヨン》の片側にある自分の小さい寝床の中に横になっていたり、そうかと思うと、時には、一二日の間はほとんど素面《しらふ》でいて自分の仕事を少くとも普通にやっていることもあった。
一方、彼がどこで酒を手に入れるのか、私たちにはどうしてもわからなかった。それは船での謎だった。私たちはずいぶん彼に注意していたけれども、少しもそれを解くことが出来なかった。そして、面と向って彼に尋ねれば、酔っている時には彼はただ笑っているばかりだったし、素面の時には、水の他《ほか》は何もついぞ飲んだことがないと真面目《まじめ》くさって否定するのだった。
彼は副船長として役に立たず、水
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