助言がほしいと思うようになってきた。それも直接に聞くわけにはゆかなかった。が、うまく釣り出すことはできるかも知れないと彼は思った。
 間もなく、彼は、自分の家の炉の一方に、主任事務員のゲスト氏と向い合って、腰を下ろしていた。二人の間には、炉からちょうどよい距離のところに、地下室に永いあいだ日の目を見ずに貯えてあった特別に古い葡萄酒が一罎おいてあった。霧はなおも霞んだ市の上に翼をひろげて眠っていて、街灯は紅玉のようにかすかに輝いていた。そしてその低く深く垂れこめた息詰るような霧の中を、都会の交通機関が相変らず強風のような音を立てて大通りを通っていた。しかし室の中は炉火の光で気持がよかった。罎の中の葡萄酒の酸はとっくの昔に溶解してしまって、その紫色は、年代を経てやわらかになっていた。ちょうど窓の色硝子の色が年月とともに冴えてくるように。そして丘の中腹の葡萄畑に照った暑い秋の午後の日光が、今にも葡萄酒の中からとき放されて、ロンドンの霧を消散させようとしているかのようであった。だんだんと弁護士は気分がやわらいできた。彼はゲスト氏には誰よりも秘密にしておくことが少なかった。そして思わぬ秘密までも
前へ 次へ
全152ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
スティーブンソン ロバート・ルイス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング