」そう言って彼はちょっとの間、両手で顔をおおうた。
 帰りがけに、弁護士は立ち止まって一言二言プールと言葉を交した。「ときに、今日手紙が届けられたそうだが、その使いの者はどんな人間だったかね?」と彼は言った。しかしプールは郵便で来たほかには何一つ来なかったときっぱり断言した。「そしてそれも通知状のようなものばかりでした、」と彼は言いそえた。
 この知らせは帰ってゆく客の不安をまた新たにした。きっとあの手紙は実験室の戸口から渡されたのだろう。あるいは、実際、あの書斎で書かれたのかも知れない。そして、もしそうだとすれば、それは違った判断をしなければならぬし、一そう慎重に取扱わねばならない。彼が歩いてゆくと、新聞売子は道ばたで声をからしながら叫んでいた。「号外。国会議員惨殺事件。」それは彼の依頼人である一人の知人の弔辞のようであった。そして、彼はもう一人の依頼人である友人の名誉がこの事件の渦中に巻きこまれはしまいかと思って、ある気がかりを抑えることができなかった。彼が決めなければならぬことは、少なくとも、細心の注意を要することであった。そして、ふだんは人に頼らないたちではあったが、彼は他人の
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