の波《なみ》の中《なか》へ、白《しろ》く眞倒《まつさかさま》に成《な》つて沼《ぬま》に沈《しづ》んだ。汀《みぎは》を廣《ひろ》くするらしい寂《しづ》かな水《みづ》の輪《わ》が浮《う》いて、血汐《ちしほ》の綿《わた》がすら/\と碧《みどり》を曳《ひ》いて漾《たゞよ》ひ流《なが》れる……
(あれを見《み》い、血《ち》の形《かたち》が字《じ》ぢやらうが、何《なん》と讀《よ》むかい。)
――私《わたし》が息《いき》を切《き》つて、頭《かぶり》を掉《ふ》ると、
(分《わか》らんかい、白痴《たはけ》めが。)と、ドンと胸《むね》を突《つ》いて、突倒《つきたふ》す。重《おも》い力《ちから》は、磐石《ばんじやく》であつた。
(又《また》……遣直《やりなほ》しぢや。)と呟《つぶや》きながら、其《そ》の蚤《のみ》の巣《す》をぶら下《さ》げると、私《わたし》が茫然《ばうぜん》とした間《あひだ》に、のそのそ、と越中褌《ゑつちうふんどし》の灸《きう》のあとの有《あ》る尻《しり》を見《み》せて、そして、やがて、及腰《およびごし》の祠《ほこら》の狐格子《きつねがうし》を覗《のぞ》くのが見《み》えた。
(奧《おく》さ
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