んや、奧《おく》さんや――蚤《のみ》が、蚤《のみ》が――)
 と腹《はら》をだぶ/\、身悶《みもだ》えをしつゝ、後退《あとじさ》りに成《な》つた。唯《と》、どしん、と尻餅《しりもち》をついた。が、其《そ》の頭《あたま》へ、棕櫚《しゆろ》の毛《け》をずぼりと被《かぶ》る、と梟《ふくろふ》が化《ば》けたやうな形《かたち》に成《な》つて、其《そ》のまゝ、べた/\と草《くさ》を這《は》つて、縁《えん》の下《した》へ這込《はひこ》んだ。――
 蝙蝠傘《かうもりがさ》を杖《つゑ》にして、私《わたし》がひよろ/\として立去《たちさ》る時《とき》、沼《ぬま》は暗《くら》うございました。そして生《なま》ぬるい雨《あめ》が降出《ふりだ》した……
(奧《おく》さんや、奧《おく》さんや。)
 と云《い》つたが、其《そ》の土袋《どぶつ》の細君《さいくん》ださうです。土地《とち》の豪農《がうのう》何某《なにがし》が、内證《ないしよう》の逼迫《ひつぱく》した華族《くわぞく》の令孃《れいぢやう》を金子《かね》にかへて娶《めと》つたと言《い》ひます。御殿《ごてん》づくりでかしづいた、が、其《そ》の姫君《ひめぎみ》は可恐
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