《し》れぬ。実際《じつさい》なら奇蹟《きせき》であるから、念《ねん》のためと、こゝで、其《そ》の翌日《よくじつ》旅店《りよてん》の主人《あるじ》に聞《き》いたのが、……件《くだん》の青石《あをいし》に薄紫《うすむらさき》の筋《すぢ》の入《はい》つた、恰《あたか》も二人《ふたり》が敷《し》いた座蒲団《ざぶとん》に肖《に》て居《ゐ》ると言《い》ふ其《それ》であつた。
『案内者《あんないしや》でも雇《やと》へやうか。』
 亭主《ていしゆ》が飛《とん》でもない顔色《かほつき》で、二人《ふたり》を視《なが》めたも道理《だうり》。

         十二

 双六《すごろく》は確《たしか》にあり。天工《てんこう》の奇蹟《きせき》の故《ゆゑ》に、四五六《しごろく》また双六谷《すごろくだに》と其処《そこ》を称《とな》へ、温泉《をんせん》も世《よ》の聞《き》こえに、双六《すごろく》の名《な》を負《お》はするが、谷《たに》を究《きは》めて、盤石《ばんじやく》を見《み》たものは昔《むかし》から誰《だれ》も無《な》い。――土地《とち》の名所《めいしよ》とは言《い》ひながら、なか/\以《もつ》て、案内者《あん
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