言葉《ことば》あらそひを興《きよう》がつて、
『何《なに》二世《にせ》なぞがあるものか、魂《たましひ》は滅《ほろ》びないでも、死《し》ねば夫婦《ふうふ》はわかれわかれだ。』
とはぐらかすと、褄《つま》を引合《ひきあ》はせながら、起直《おきなほ》つて、
『私《わたし》は此《こ》の世《よ》ばかりでは厭《いや》です。』
とツンとした。
『それでは二人《ふたり》で、一世《いつせ》か、二世《にせ》か賭《かけ》をしやう。』
 苟《いやし》くも未来《みらい》の有無《うむ》を賭博《かけもの》にするのである。相撲取草《すまうとりぐさ》の首《くび》つ引《ぴき》なぞでは其《そ》の神聖《しんせい》を損《そこな》ふこと夥《おびたゞ》しい。聞《き》けば此《こ》の山奥《やまおく》に天然《てんねん》の双六盤《すごろくばん》がある。其《そ》の仙境《せんきやう》で局《きよく》を囲《かこ》まう。
 で、其《そ》の勝敗《しようはい》を紀念《きねん》として、一先《ひとま》づ、今度《こんど》の蜜月《みつゞき》の旅《たび》を切上《きりあ》げやう。けれども双六盤《すごろくばん》は、唯《たゞ》土地《とち》の伝説《でんせつ》であらうも知
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