ん》だか蝶《てふ》だか区別《くべつ》が附《つ》かない。遥々《はる/″\》来《き》た、と言《い》はれては何《なん》とも以《もつ》て極《きまり》が悪《わる》い。気《き》も魂《たましひ》もふら/\で、六十余州《ろくじふよしう》、菜《な》の花《はな》の上《うへ》を舞《ま》ひ歩行《ある》いても疲《つか》れぬ元気《げんき》。其《それ》も突《つゝ》かけに夜昼《よるひる》かけて此処《こゝ》まで来《き》たなら、まだ/\仕事《しごと》の手前《てまへ》、山《やま》にも水《みづ》にも言訳《いひわけ》があるのに……彼方《あつち》へ二晩《ふたばん》此方《こつち》へ三晩《みばん》、泊《とま》り泊《とま》りの道草《みちくさ》で、――花《はな》には紅《くれなゐ》、月《つき》には白《しろ》く、処々《ところ/″\》の温泉《をんせん》を、嫁《よめ》の姿《すがた》で彩色《さいしき》しては、前後左右《ぜんごさいう》、額縁《がくぶち》のやうな形《かたち》で、附添《つきそ》つて、木《き》を刻《きざ》んで拵《こしら》へたものが、恁《か》う行《い》くものか、と自《みづ》から彫刻家《てうこくか》であるのを嘲《あざ》ける了見《れうけん》。

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