りだ》す躰《てい》は、嘴《くちばし》長《なが》い鷺《さぎ》の船頭《せんどう》化《ば》けたやうな態《さま》である。
 雪枝《ゆきえ》は、しばらく猶予《ためら》つた。
「仮《かり》にも先生《せんせい》と呼《よ》んだ貴下《あなた》に向《むか》つて、嘘《うそ》は言《い》へません。……一度《いちど》来《こ》やう、是非《ぜひ》見《み》たい。生《うま》れない以前《いぜん》から雪枝《ゆきえ》の身躰《からだ》とは、許嫁《いひなづけ》の約束《やくそく》があるやうな此《こ》の土地《とち》です。信者《しんじや》が善光寺《ぜんくわうじ》、身延《みのぶ》へ順礼《じゆんれい》を為《す》るほどな願《ねがひ》だつたのが、――いざ、今度《こんど》、と言《い》ふ時《とき》、信仰《しんかう》が鈍《にぶ》つて、遊山《ゆさん》に成《な》つた。
 其《それ》が悪《わる》かつたんです……
 家内《かない》と二人連《ふたりづれ》で来《き》たんです、然《しか》も婚礼《こんれい》を為《し》たばかりでせう。」
 盃《さかづき》を納《をさめ》るなり汽車《きしや》に乗《の》つて家《いへ》を出《で》た夫婦《ふうふ》の身体《からだ》は、人間《にんげ
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