あひて》を視《なが》めた。
「え、貴下《あなた》かも分《わか》らん、貴下《あなた》かも知《し》れません。先生《せんせい》、仰有《おつしや》つて下《くだ》さい、一生《いつしやう》のお願《ねが》ひです。」
「若《わけ》え旦那《だんな》、祖父殿《おんぢいどん》が事《こと》は私《わし》も知《し》らんで、何《なに》か言《い》はつしやりますやうな悪戯《いたづら》を為《し》たかも分《わか》らねえ。私《わし》は早《は》や、獅子鼻《しゝばな》や団栗目《どんぐりめ》、御神酒徳利《おみきどつくり》の口《くち》なら真似《まね》も遣《や》るが、弁天様《べんてんさま》は手《て》に負《お》えねえ……まあ、そんな事《こと》は措《お》かつしやい。ぢやが、お前様《めえさま》は山《やま》が先生《せんせい》、水《みづ》が師匠《ししやう》と言《い》ふわけ合《あひ》で、私等《わしら》が気《き》にや天上界《てんじやうかい》のやうな東京《とうきやう》から、遥々《はる/″\》と……飛騨《ひだ》の山家《やまが》までござつたかね。」
と掻蹲《かつゝくば》ひ、両腕《りやううで》を膝《ひざ》に預《あづ》けたまゝ啣煙管《くはへぎせる》で摺出《す
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