ども》の時《とき》から、其《そ》の像《ざう》の事《こと》が、目《め》にも心《こゝろ》にも身躰《からだ》にも離《はな》れなかつた為《せゐ》なんです。
こんな辺鄙《へんぴ》な温泉《をんせん》へ参《まゐ》つたのも、実《じつ》は忘《わす》れられない可懐《なつか》しい気《き》が為《し》たゝめです。何処《どこ》か知《し》らんが、其《そ》の木像《もくざう》は、父《ちゝ》が此《こ》の土地《とち》から持《も》つて帰《かへ》つたと言《い》ふぢやありませんか。
山《やま》も谷《たに》も野《の》も水《みづ》も、其処《そこ》には私《わたくし》の師匠《ししやう》がある、と信《しん》じ居《ゐ》た。果《はた》して貴下《あなた》にお目《め》にかゝつた。――あの、白無垢《しろむく》に常夏《とこなつ》の長襦袢《ながじゆばん》、浅黄《あさぎ》の襟《ゑり》して島田《しまだ》に結《ゆ》つた、両《りやう》の手《て》に秘密《ひみつ》を蔵《かく》した、絶世《ぜつせ》の美人《びじん》の像《ざう》を刻《きざ》んだ方《かた》は、貴下《あなた》の其《そ》の祖父様《おぢいさん》では無《な》いでせうか。」
雪枝《ゆきえ》は熟《じつ》と対手《
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