が。私《わたくし》の身躰《からだ》が一《ひと》つ、胴廻《どうまは》りを為《す》ると、肩《かた》から倒《さかさま》に婦《をんな》が落《お》ちた。裙《すそ》が未《ま》だ此《こ》の肱《ひぢ》に懸《かゝ》つて、橋《はし》に成《な》つて床《ゆか》に着《つ》く、仰向《あふむ》けの白《しろ》い咽喉《のど》を、小刀《ナイフ》でざつくりと、さあ、斬《き》りましたか、突《つ》いたんですか。
『きやつ、』と言《い》つて、私《わたくし》は鉄砲玉《てつぱうだま》のやうに飛出《とびだ》したが、廊下《らうか》の壁《かべ》に額《ひたひ》を打《ぶ》つて、ばつたり倒《たふ》れた。……気《き》の弱《よわ》い母《はゝ》もひきつけて了《しま》つたさうです。
 母《はゝ》は、父《ちゝ》が、其《そ》の木像《もくざう》の胴《どう》を挫折《ひしを》つた――其《それ》が又《また》脆《もろ》く折《を》れた――のを突然《いきなり》頭《あたま》から暖炉《ストーブ》へ突込《つゝこ》んだのを見《み》たが、折口《をれくち》に偶《ふ》と目《め》が着《つ》くと、内臓《ないざう》がすつかり刻込《きざみこ》んであつた。まるで生《しやう》のものを見《み》るや
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