》が卓子掛《ていぶるかけ》と絨氈《じうたん》の間《あひだ》で動《うご》いた。窓《まど》の外《そと》は雪《ゆき》が其《そ》の光《ひかり》を撫《な》でゝ、さら/\音《おと》が為《し》さうに、月《つき》が有《あ》つて、植込《うゑこみ》の梢《こずえ》がちら/\黒《くろ》い。烈々《れつ/\》と燃《も》える暖炉《だんろ》のほてりで、赤《あか》い顔《かほ》の、小刀《ナイフ》を持《も》つたまゝ頤杖《あごづゑ》をついて、仰向《あふむ》いて、ひよいと此方《こちら》を向《む》いた父《ちゝ》の顔《かほ》が真蒼《まつさを》に成《な》つた。

         十

「東京《とうきやう》駿河台《するがだい》に家《うち》があつた、其《そ》の二階《にかい》でした。」
と言《い》ひかけて、左右《さいう》を見《み》る、と野《の》と濠《ほり》と草《くさ》ばかりでは無《な》く、黙《だま》つて打傾《うちかたむ》いて老爺《ぢゞい》が居《ゐ》た。其《それ》を、……雪枝《ゆきえ》は確《たしか》め得《え》た面色《おもゝち》であつた。
「父《ちち》が矗乎《すつくり》と立《た》つと……
『おのれ!』と言《い》つて、つか/\と来《き》ました
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