》で、欲《ほし》くない。両親《りやうしん》が卓子《ていぶる》に対向《さしむか》ひで晩飯《ばんめし》を食《た》べて居《ゐ》た。其処《そこ》へ、彫像《てうざう》を負《おぶ》つて入《はい》つたんですが、西洋室《せいやうま》の扉《ひらき》を開《あ》けやうとして、
『姉《ねえ》さん、』と仰向《あふむ》くと上《うへ》から俯向《うつむ》いて見《み》たやうに思《おも》ふ、……廊下《らうか》の長《なが》い、黄昏時《たそがれどき》の扉《ひらき》の際《きは》で、むら/\と鬢《びん》の毛《け》が、其時《そのとき》は戦《そよ》いだやうに思《おも》ひました。ぱつちりした目《め》が、眉《まゆ》の下《した》で、睫毛《まつげ》を黒《くろ》く瞬《またゝ》いたやうで。……」
見《み》ながら、其《そ》のまゝ、扉《ひらき》を開《あ》ける、と小児《こども》の背《せな》に、裾《すそ》を後抱《うしろだき》にして居《ゐ》た彫像《てうざう》の丈《たけ》が反《そ》つて、髷《まげ》が、天井裏《てんじやううら》の高《たか》い処《ところ》に見《み》えた。
ト半靴《はんぐつ》の先《さき》を反《そ》らした、母親《はゝおや》の白《しろ》い足《あし
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