わしら》が他《ほか》には、人間《にんげん》らしい影《かげ》もねえだ。偶々《たま/\》突立《つゝた》つて歩行《ある》くものは、性《しやう》の善《よ》くねえ、野良狐《のらぎつね》か、山猫《やまねこ》だよ。
 こんな処《ところ》へ、主《ぬし》は何《なん》として又《また》姉様《あねさま》の人形《にんぎやう》連《つ》れて来《き》さつせえた。」
「其《それ》を順《じゆん》にお話《はなし》しませう、」
と雪枝《ゆきえ》は一度《いちど》塞《ふさ》いだ目《め》を、茫乎《ばう》と開《あ》けて、
「父《ちゝ》が此《こ》の処《ところ》を巡廻《じゆんくわい》した節《せつ》、何処《どこ》か山蔭《やまかげ》の小《ちひ》さな堂《だう》に、美《うつくし》い二十《はたち》ばかりの婦《をんな》の、珍《めづら》しい彫像《てうざう》が有《あ》つたのを、私《わたくし》の玩弄《おもちや》にさせうと、堂守《だうもり》に金子《かね》を遣《や》つて、供《とも》のものに持《も》たせて帰《かへ》つたのを、他《ほか》に姉妹《きやうだい》もなし、姉《あね》さんが一人《ひとり》出来《でき》たやうに、負《おぶ》つたり抱《だ》いたり為《し》ました。大
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