八尺余《はつしやくよ》も積《つも》つた雪《ゆき》が一晩《ひとばん》に融《と》けて、びしや/\と消《き》えた。あれ松《まつ》が蒼《あを》いわ、と言《い》ふ内《うち》に、天《てん》も地《ち》も赤黒《あかぐろ》く成《な》つて、活《い》きものと言《い》ふ活《いき》ものは、泥《どろ》の上《うへ》を泳《およ》いだての。
其《そ》の響《ひゞ》きで、今《いま》の処《ところ》へ、熱湯《ねつたう》が湧出《わきだ》いた。ぢやがさ、天道《てんだう》人《ひと》を殺《ころ》さずかい。生命《いのち》だけは助《たすか》つても、食《く》はう飲《の》まうの分別《ふんべつ》も出《で》なんだ処《ところ》温泉《をんせん》が昌《さか》つて来《き》たで、何《ど》うやら娑婆《しやば》の形《かたち》に成《な》つた。其《そ》のかはり、旧《もと》から噂《うはさ》の高《たか》かつたお天守《てんしゆ》の此《こ》の辺《へん》は、人《ひと》の寄附《よりつ》かぬ凄《すご》い処《ところ》に成《な》りましたよ。見《み》さつせえ、いまに太陽様《おてんとうさま》が出《で》さつせえても、濠端《ほりばた》かけて城跡《しろあと》には、お前様《めえさま》と私等《
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