《わし》がことを鷺《さぎ》の船頭《せんどう》、埒《らち》もない芸当《げいたう》だあ。」
と蹲《しやが》んで、腰《こし》の煙草入《たばこいれ》を捻《ひね》り出《だ》す。
 聞《き》くものは、目《め》を閉《と》ぢて恍惚《ぼう》とした。

         八

「処《ところ》が、聞《き》かつせえまし。」
と、すぱ/\と煙《けむり》を吹《ふ》かす。近《ちか》い煙草《たばこ》に遠霞《とほがすみ》で、天守《てんしゆ》を包《つゝ》んだ鬱蒼《うつさう》たる樹立《こだち》の蔭《かげ》が透《す》いて来《く》る。
「段々《だん/\》村《むら》が遠退《とほの》いて、お天守《てんしゆ》が寂《さび》しく成《な》ると、可怪《あやし》可恐《おそろし》い事《こと》が間々《まゝ》有《あ》るで、あの船《ふね》も魔《ま》ものが漕《こ》いで焼《や》くと、今《いま》お前様《めえさま》が疑《うたが》はつせえた通《とほ》り……
 私《わし》が拵《こさ》へものと思《おも》ひながら、不気味《ぶきみ》がつて、何《なに》か魔《ま》の人《ひと》が仕掛《しか》けて置《お》く、囮《おとり》のやうに間違《まちが》へての。谿河《たにがは》を流《なが
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