や。
『町人《ちやうにん》、此《こ》の船《ふね》を何《ど》うするな。』
『御意《ぎよい》にござります。舳《みよし》に据《す》えました其《そ》の五位鷺《ごゐさぎ》が翼《つばさ》を帆《ほ》に張《は》り、嘴《くちばし》を舵《かぢ》に仕《つかまつ》りまして、人手《ひとで》を藉《か》りませず水《みづ》の上《うへ》を渡《わた》りまする。』
と申上《まをしあ》げたて。……なれども唯《たゞ》差置《さしお》いたばかりでは鷺《さぎ》が翼《つばさ》を開《ひら》かぬで、人《ひと》が一人《ひとり》乗《の》る重量《おもみ》で、自然《おのづ》から漕《こ》いで出《で》る。……一体《いつたい》が、天上界《てんじやうかい》の遊山船《ゆさんぶね》に擬《なぞ》らへて、丹精《たんせい》籠《こ》めました細工《さいく》にござるで、御斉眉《おかしづき》の中《なか》から天人《てんにん》のやうな上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じやうらう》御一方《おひとかた》、と望《のぞ》んだげな。
当時《たうじ》飛鳥《とぶとり》も落《お》ちると言《い》ふ、お妾《めかけ》が一人《ひとり》乗《の》つて出《で》たが、船《ふね
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