丹宗門《キリシタンしうもん》で、魔法《まはふ》を使《つか》ふと言《い》ふて、お城《しろ》の中《なか》で殺《ころ》されたとも言《い》へば、行方知《ゆくへし》れずに成《な》つたとも言《い》ふ。
 はじめは、不思議《ふしぎ》な機関《からくり》を藩主様《とのさま》御前《ごぜん》で見《み》せい言《い》ふて、お城《しろ》へ召《め》されさしけえの、其時《そのとき》拵《こさ》へたのが、五位鷺《ごゐさぎ》の船頭《せんどう》ぢや。
 それ、船《ふね》を浮《うか》べたのは、矢張《やはり》此《こ》の濠《ほり》。」
と言《い》ひかけて、水《みづ》には臨《のぞ》まず、却《かへ》つて空《そら》を指《ゆびさ》した老爺《ぢい》の指《ゆび》は、一《ひとつ》の峰《みね》と相対《あひむか》つて、霞《かすみ》の高《たか》い、天守《てんしゆ》の棟《むね》に並《なら》んで見《み》えた。
「これは、其《そ》の三重濠《さんぢゆうぼり》で、二《に》の丸《まる》の奥《おく》でがす。お殿様《とのさま》は、継上下《つぎかみしも》の侍方《さむらひがた》、振袖《ふりそで》の腰元衆《こしもとしゆ》づらりと連《つ》れて出《で》て御見物《ごけんぶつ》ぢ
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