わらぢ》の尖《さき》で向直《むきなほ》つた。早《は》や煙《けむり》の余波《なごり》も消《き》えて、浮脂《きら》に紅蓮《ぐれん》の絵《ゑ》も描《か》かぬ、水《みづ》の其方《そなた》を眺《なが》めながら、
「あの……木葉船《こツぱぶね》はの、丁《ちやん》と自然《ひとりで》に動《うご》くでがすよ……土地《とち》のものは知《し》つとります。で、鷺《さぎ》の船頭《せんどう》と渾名《あだな》するだ。それ、見《み》さしつた通《とほ》り、五位鷺《ごゐさぎ》が漕《こ》ぐべいがね。」
「漕《こ》ぐのは鷺《さぎ》でも鳶《とんび》でも構《かま》はん。漕《こ》がせるのは人間《にんげん》ぢや無《な》いのだらう。」
余計《よけい》なことを、と投《な》げ調子《てうし》。
「いんや、お前様《めえさま》、お天守《てんしゆ》の、」
と声《こゑ》を密《ひそ》めて、
「……魔《ま》の人《ひと》が為業《しわざ》なら、同一《おなじ》鷺《さぎ》が漕《こ》ぐにして、其《そ》の船《ふね》は光《ひかり》を放《はな》つて、ふわ/\雲《くも》の中《なか》を飛行《ひぎやう》するだ。
……たか/″\人間《にんげん》の仕事《しごと》だけに、羽《
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