と思《おも》はつしやる。」
「魔物《まもの》で無《な》くて、魔物《まもの》で無《な》くて、汝《おのれ》、五位鷺《ごゐさぎ》が漕出《こぎだ》して、濠《ほり》の中《なか》で自然《しぜん》に焼《や》ける……不思議《ふしぎ》な船《ふね》の持主《もちぬし》が有《あ》るものか。」
「成程《なるほど》、何《なに》も仔細《しさい》を知《し》らつしやらぬお前様《めえさま》は、様子《やうす》を見《み》ても、此処等《こゝら》の人《ひと》ではござらつしやらぬ。」
「那様《そん》な事《こと》を言《い》つて何《ど》うする、貴様《きさま》は奪《うば》つて行《い》つた俺《おれ》の女房《にようばう》の、町処《ちやうところ》まで知《し》つてるでは無《な》いか。」
「急《せ》かつしやるな。此《こ》の山裾《やますそ》の、双六温泉《すごろくをんせん》へ、湯治《たうぢ》に来《き》さつせえた人《ひと》だんべいの。」
「知《し》れた事《こと》を、貴様《きさま》がお浦《うら》を掴出《つかみだ》した、……あの旅籠屋《はたごや》に逗留《とうりう》して居《ゐ》る。」
「そんなら、はい、無理《むり》はねえだ。」
と莞爾《につこり》して、草鞋《
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