如何《いか》にも、我《わ》が顔《かほ》ながら不気味《ぶきみ》さうに見《み》えた。――眉《まゆ》を顰《ひそ》めて、
「ま、ま、少《わけ》え旦那《だんな》、落着《おちつ》かつせえ、気《き》を静《しづ》めさつせえまし。……魔物《まもの》だ、鬼《おに》だ喚《わめ》いて、血相《けつさう》を変《か》へてござる……何《ど》うも見《み》た処《ところ》、――未《ま》だ此《こ》の上《うへ》に逆上《のぼせあが》らつしやるなよ――何《ど》うやら取逆《とりのぼ》せて居《ゐ》さつしやるが、はて、」
と上下《うへした》、天守《てんしゆ》を七分《しちぶ》、青年《わかもの》を三分《さんぶ》に見較《みくら》べ、
「もの、此処《こゝ》さ城趾《しろあと》の、お天守《てんしゆ》へ上《あが》らつしやりは為《し》ねえかの。」
「為《し》ねえかぢや無《な》からう。昨夜《ゆふべ》貴様《きさま》に何処《どこ》で逢《あ》つた?」
「先《ま》づ、むゝ、其《それ》で分《わか》つた。」
「分《わか》つたか。いや昨夜《さくや》は失礼《しつれい》したよ、魔物《まもの》の隊長《たいちやう》。」
「はて、迷惑《めいわく》な、私《わし》う魔物《まもの》だ
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