。老爺《ぢい》さん、今《いま》のは、彼《あれ》は、木像《もくざう》だ、製作《つく》つた木彫《きぼり》の婦《をんな》なんだ。」
「木彫《きぼり》の? はて、」
と腕《うで》を組《く》んで、
「えい、其《それ》は又《また》、変《かは》つたもんだね。船《ふね》と一所《いつしよ》に焼《や》けたものは、活《い》きた人《ひと》で無《な》うて、私《わし》先《ま》づ安堵《あんど》をしたでがすが、木彫《きぼり》だ、と聞《き》けば尚《なほ》魂消《たまげ》る……豪《えれ》え見事《みごと》な、宛然《まるで》生身《しやうじん》のやうだつけの。背後《うしろ》の野原《のはら》さ出《で》て見《み》た処《ところ》で、肝玉《きもたま》の宿替《やどがへ》した。――あれ一面《いちめん》の霞《かすみ》の中《なか》、火《ひ》と煙《けむり》に包《つゝ》まれて、白《しろ》い手足《てあし》さびいく/\為《し》ながら、濠《ほり》の石垣《いしがき》へ掛《か》けて釣《つる》し上《あ》がるやうに見《み》えたゞもの。地獄《ぢごく》の釜《かま》の蓋《ふた》を取《と》つて、娑婆《しやば》へ吹上《ふきあ》げた幻燈《うつしゑ》か思《おも》ふたよ。
 尋
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