りわた》るばかりと成《な》つたが。
 余《あま》りの労働《はたらき》、羽《はね》の間《あひだ》に垂々《たら/\》と、汗《あせ》か、※[#「さんずい+散」、76−16]《しぶき》か、羽先《はさき》を伝《つた》つて、水《みづ》へぽた/\と落《お》ちるのが、血《ち》の如《ごと》く色《いろ》づいて真赤《まつか》に溢《あふ》れる。……
「火《ひ》の粉《こ》だ、火《ひ》の粉《こ》だ。」と濠端《ほりばた》で、青年《わかもの》が驚《おどろ》き叫《さけ》んだ。
 果《はた》して血《ち》の汗《あせ》を絞《しぼ》る、と見《み》えたは、翼《つばさ》を落《お》ちる火《ひ》であつた。
「飛《と》ばつせえ船《ふね》の人《ひと》、船《ふね》の人《ひと》、飛《と》ばつせえ、飛込《とびこ》むのだえ!」
と野良調子《のらでうし》の高声《たかごゑ》を上《あ》げて、広野《ひろの》の霞《かすみ》に影《かげ》を煙《けぶ》らせ、一目散《いちもくさん》に駆附《かけつ》けるものがある。
 驚駭《おどろき》のあまり青年《わかもの》は、殆《ほとん》ど無意識《むいしき》に、小脇《こわき》に抱《いだ》いた、其《そ》の一襲《ひとかさ》ねの色衣《い
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